一生懸命と一所懸命は、命懸けで物事に取り組むことを意味するが、違いが全くないわけではない。
一所懸命の元々の意味は、中世の武士が賜った一カ所の領地を命懸けで守り、生活の頼みとすることで、「一所」は「一カ所(の領地)」を表す。
これが近世に入ってから、物事を命懸けでするという意味になったため、「一所」と「一生」が混同され、「一生懸命」という言葉が生まれた。
一生懸命は「一所懸命の誤用」とされていた時代もあったが、「一生」を使った方が「力の限り」というニュアンスが伝わりやすく、「一生懸命」の表記が圧倒的に多くなったことから、誤用という解釈はされなくなり、現在は新聞などでも「一生懸命」の表記に統一されている。
しかし、「一所懸命」を使う場面が全くなくなったわけではない。
歌舞伎の挨拶では、多くの場合「一生懸命」ではなく「一所懸命」が使われる。
歌舞伎なので古い言い方をするというのも理由の一つだが、代々伝わる屋号(一所)を命懸けで守るという意味を含んでいるためでもある。
つまり、命懸けで物事にあたることを表すのであれば「一生懸命」と書くのが一般的だが、「一カ所を守る」という本来の意味を含んで使いたい時には、「一所懸命」と書くのが正しいのである。
ちなみに、「一所懸命」の読みは「いっしょけんめい」、「一生懸命」の読みは「いっしょうけんめい」なので、漢字と読みが一致していないものは間違いとなる。