「十分」と「充分」


不足がないさまを表す「じゅうぶん」の漢字には「十分」と「充分」がある。
元々は「十分」が使われており、「充足」や「充実」などの言葉の意味から「充分」とも書くようになったもので、本来の表記は「十分」である。

文部科学省用字用語例では「十分」と書くため、公文書では「十分」が用いられるが、日本国憲法第37条では「充分」が使われている。
元々、「十分」のみであったことや公文書で「充分」が使えないことから、私的な文章でも「十分」で統一されることが多い。

使い分けされる場合には、十分の「十」が数を表すことから、数値的・物理的に満たされていることには「十分」。
充分の「充」は、満ち(充ち)足りることを表すため、量的なものではなく、精神的に満たされていることには「充分」を使っていることが多い。
例えば、腹八分目であれば、十分食べたことにはならないが、充分な満足感を得ることはできる、といったものである。

しかし、数値的に満たされることには「十分」を使うと決めてしまうことで、伝わりにくくなることもある。
「十分に人が集まった」「十分煮る」「残り三十分だから、時間は十分ある」と書いてあると、時間の「10分」を表しているのか、不足がない意味の「十分」なのか分かりにくいのである。

数値的・物理的に満たされていることには「十分」、精神的に満たされていることには「充分」というのは、そのような例が多いというだけで、どちらを使っても間違いではない。
公的文書では「充分」を使えないため、時間の10分と間違いやすければ、別の言葉に置き換えるか、前後の文で調整する必要があるが、それ以外は、数値的・精神的での使い分けを考慮しつつ、場面に応じて意味が伝わりやすい方を選ぶのが一番である。

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